2019-02-26

未知の魚を求めて国内外を飛び回る僕が「釣り」で得た、プライスレスなもの

釣り沼

生物ライターの平坂寛さんが、自身の釣り人生を振り返ります。まだ見ぬ“強い魚”を追い求めて、世界を飛び回る釣り人の平坂さん。確かにお金はかかるけれど、それ以上にプライスレスな体験を得ていると話します。

「釣りなんて、海の近くは夏だと暑くて冬は寒いし、手は臭くなるし、何が面白いの?」と思うかもしれない。でも楽しいんだなぁこれが。多分もう一生抜け出せない、と実感してしまうほどに。

今日は僕、平坂寛が、これまでの経験や釣ってきた“珍魚”たちを披露しつつ「魚釣りって面白いんだぞ! ハマるといろいろヤバいんだぞ!」という話をしたいと思う。

安物の道具なのに“大物”が釣れた! 釣りにハマったきっかけ

釣りを始めるきっかけやハマっていく理由は、人それぞれ。じゃあ僕はどうだったかというと、話は23年前にさかのぼる。

釣り
釣りを始めるまでは、もっぱら網で魚を捕って遊んでいた(今でもやるけど)

 小学生の頃は、袋状の一般的なタモ網で魚をすくって遊ぶのが、何よりも好きだった。大きな魚ほどすばしっこく、捕えられたのはメダカなど指先のように小さな魚ばかりだった。それでも十分に楽しく、捕まえた魚を持ち帰って飼ったこともあった。

図鑑を広げて名前を調べるのも、至福の時間だった。これは大人になった今でも続けている。初めて見る魚を捕まえるたびに胸が躍った。1種類でも多くの魚を手にしたいと思った。

そんな僕が初めて釣り竿を握ったのは、小学5年生の頃。近所の大学で水産系を学んでいたブラジル人の留学生が帰国する際に、安物の釣り具セットを譲ってくれたのがきっかけだった。

人からもらっておいて安物呼ばわりとはどういう了見だと思われるかもしれないが、小学生のガキンチョが見てもそう言わざるを得ないほど、それは安物だったのだ。リールや竿はプラスチック製のオモチャに毛が生えたような作りで、そこに釣り針やオモリといったわずかばかりの小物が付属するという、なんとも子供だましな物だった。

しかし、それを海へ持ち出してみて驚いた。なんとなくエサを針に刺して海中に放り込むと、瞬く間に魚が釣れた。それも、今までタモ網ではどう頑張っても捕まえることができなかったような、アジやスズメダイといった手のひらサイズの“大物”たちだ。魔法のようだった。

釣り
こんな手のひら大の魚が相手となると、網で捕まえるのは難しい
でも釣り竿を使えば楽勝!

 「これだ!」と思った。この方法を、釣りを覚えれば、もっと多くのまだ見ぬ魚たちを捕まえられるに違いない。図鑑でしか見たことのないあの魚にも、あるいは図鑑にさえ載っていないような魚にも会えるかもしれない。

こうして、安物の釣りセットによって、僕は釣りという“底なし沼”へ足を一歩踏み入れてしまった。釣れると楽しい、釣れるとハマる。釣りとはそういうものなのだ。

ターニングポイントは、ブラジルのジャングルで出会った“謎の大物”

それからは、身近な場所で釣りを楽しんでいた。小遣いを貯めて仕掛けを買い、手ごろな魚を釣っていた小・中・高校生時代はまだ良かった。遠出や無駄遣いをしようったって、経済的に不可能だったのだから。

問題はその後。一人暮らしにも慣れ、自由に使えるお金もじわじわと増えてきた、大学生時代である。この頃は、素潜りや磯歩きといった釣り以外の趣味が増えたこともあり、釣りに出向くのは2カ月に1回程度に押さえられていた。そんな矢先、ブラジルを旅することになったのだ。

目指すはパンタナールという大湿原で、さまざまな熱帯魚が暮らす、南米でも有数の“魚たちの楽園”である。きっと何か面白い魚が釣れるに違いないと、日本からあり合わせの釣り具も持参した。

しかし、僕はジャングルを流れる川で、謎の大物たちにコテンパンに敗北したのだった。

釣り
ピラニアとか、小さいやつはいろいろ釣れたんだけどね……

 念のために言っておくと、日本から持ち出した釣り道具は、決して貧弱なものではなかった。それこそ、大きなスズキくらいなら無難に釣れるようなアイテムをそろえていたはずだ。

それでも、地球の裏側では歯が立たなかった。針をへし折られ、ルアーを砕かれ、最後にはリールまで壊され、獲物たちには逃げられた。姿を見せてくれなかったあの大物たちの正体は何だったのか。今でも思い返すと悔しさで変な汗が出てくるほどだ。

そんな苦い経験もあり、帰国してからは本格的に道具をそろえて、釣りについてもっと詳しくなろうと勉強を始めた。

今思うと、完全にここがターニングポイントだった。謎の大物に負けた悔しさを経て、いよいよ引き返せないところまで一気にハマってしまったのだ。釣れないと悔しい。でも、釣れないとかえってハマる。釣りとは、そういうものでもあるのだ。

狙う魚によって装備をチェンジ ハマったのは一番お金がかかるタイプの釣りだった

釣り
知床沖で釣れたオオカミウオ
水族館で見るのとは、サイズも迫力も段違い!

 ブラジルでの失敗を省みて、どういう釣り方でどういう魚が釣れるのかを研究するうちに、じわじわと国内でも大物を釣れるようになった。

それで満足すればいいのだが、根底にあるのが「1種類でも多くの魚を!」という思いなので、厄介だ。釣れば釣るほど、新しいターゲットが見つかってしまう。この川でこの魚は釣れたから、次はあの海であの魚を釣りたい。場所はドブから深海まで、沖縄から北海道まで、日本から海外まで……。もう、キリがない。

釣り
どこでも釣るぜ!
写真はパリ市内、あのセーヌ川(!)で釣ったヨーロッパオオナマズ

さらに、魚類とひとくくりに言っても、現在名前がついているものだけで3万種近くも存在する。それらを釣っていくとなると……よく言えば長く楽しめる趣味なのだろうが、見方を変えれば一生終わりを迎えることのない底なし沼でもある。特に予算の面ではなかなか痛い。

釣りの楽しみ方は人それぞれだ。例えば、ひたすらヘラブナ釣りに邁進するというふうに、一つのジャンルをとことん極める道もある。

そういうタイプであれば、道具は一度買いそろえれば、小物以外は頻繁に買い足さずに済む(つい竿とか買っちゃう人も多いと思うが)。それに、海外へ長距離遠征することもほぼないはずだ。毎週釣りに出掛けていたとしても、意外とお金はかかっていないだろう。

釣り
オーストラリアで釣ったジャイアントショベルノーズシャーク
シャークと名はつくがエイの仲間

 しかし、僕のように一つの種に絞らず、各地でさまざまな魚を釣って回るというのは、あらゆる釣りの中で最もお金を浪費するタイプだ。毎回ターゲットが異なるので、その度に新しい装備を購入する羽目になる。

例えば「今回は超小さい魚を釣るから、髪の毛みたいに細い釣り糸とミジンコみたいに小さな釣り針を用意しないと……。あっ、それ釣ったら今度は水深千mで深海魚釣るから、電動リール買わなきゃ……。その次はサメだからワイヤーとエサのカツオを丸ごと10本……」という具合だ。

さらに僕の場合は遠方のあちこちに出向くことになるため、装備代以上に旅費がかかってしまう。

そんな金食い虫の趣味なんかやめちまえ! と思われるかもしれない。ごもっともだ。でもやっぱり、試行錯誤の末にいろいろな土地でいろいろな魚に出会えるのが楽しいんだこれが! 掛け値なしに!

釣り
大物だけが目当てではない。こんな綺麗な魚に出会えるのも楽しみの一つ
これは、オーストラリアで釣ったハゼの一種

 どんなにお金がかかっても、長い時間を費やしても、思い出に残る魚が釣れるたびに病みつきになってしまう。逆に釣れなかったら釣れなかったで、「釣れるまでやめない!」とムキになってのめり込んでしまう。そして、苦労と浪費の果てに狙いの魚が釣れると、アドレナリンがドバドバ出ているのがわかるほどの達成感と多幸感に包まれる。

これが、時間とお金を蝕む、釣りという“無間地獄”だ。

23年間の「お金がかかった釣り」トップ3は……

では、特にお金のかかった釣りを3つほど紹介しよう。ここからは「こんなにお金がかかってもやめられないほど面白いものなのか!」と思いながら読んでほしい。

【その1】道具が高い! 船代も高い! 「深海釣り」

まずは、水深500m以上の海域で深海魚を狙う「深海釣り」。特に漁場として確立されていない未知の釣り場で、名前も知らないような魚を釣るというのが面白いポイントだ。

釣り
東京湾の深海域で釣れた超かっこいい深海ザメ
めちゃくちゃ嬉しかったが、普通の釣り人や漁師さんは迷わず捨てるそうだ。
……価値観は人それぞれだな!

 この釣りでは遊漁船をチャーターする必要があるため、そもそも船代がかさむ。安くても数万円はするし、10万円を超えることも多いので、同行者を見つけて割り勘しなければならない。わざわざ深海魚を釣ってみようという奇特な釣り人を探すのがまた大変なのである。

釣り
深海用の釣り具は特殊ゆえに値段が高い!
写真に写っているのは借り物だが、ここにある一式だけでざっくり70万円は超える

 さらに専用の釣り具……特に電動リールというやつがとても高価で、1台あたり数十万円することも珍しくない。そこへ巻き込む釣り糸だけでも、数万円に達する。

釣り
水深700mから上がってきた深海の巨大魚・アブラボウズ
食べてもおいしい!

 僕は深海釣りが大好きなのだが、これまでにいくら費やしたかと考えると……なんだか具合が悪くなってきた。

【その2】交通費だけで30万円! 時間もお金もかけた「カスザメ釣り」

1匹を釣るためにかけた額でいうと、カスザメというサメの一種を相手にした際はなかなかのものだった。

カスザメは、初夏と冬のごく限られた期間にのみ、千葉・房総半島沿岸に接岸するという習性がある。ただし、そのタイミングは毎年ずれる上に非常にシビアで、狙い撃ちにできるのはほんの数日だけなのだ。

そのタイミングを引き当てるべく、当時住んでいた長崎から房総半島へと、2年以上にわたって何度も何度も通った。特に釣果報告が頻繁に上がる年末年始は航空券が高いため、いつの間にか鉄道料金やレンタカー代などを合わせた交通費だけで、ざっと30万円以上が飛んだ。これに宿泊費や食費、道具代などが加算されるのだから、海外遠征ができるほどの金額になっている。

釣り
あまりの寒さに釣り竿に使い捨てカイロを巻いて頑張った

 そんなに払ってまで寒空の中で釣れるかわからない釣りをし続けるものだから、周囲からはかなりの変人扱いを受けた。しかし、当時は気温よりも懐具合の方が寒かったように記憶している。

釣り
30万円かけて釣ったカスザメ
ちなみに、漁協へ行くと一匹数百円くらいの捨て値で買える

 カスザメは、普通の釣り人は釣りたがらないような、いわゆる“ゲテモノ”だ。それでも、やっと釣れた1匹のカスザメには、30万ぽっちでは到底足りないほどの価値があった。……と、今でも自分に言い聞かせている。

【その3】3週間で70万円! 沖縄で深海釣りをした後、アメリカまで川魚釣りへ

短期間でお金が飛んだという意味では、直近だと2018年8月の釣り遠征が思い出される。この月は、沖縄・石垣島で深海釣りをした後、アメリカのフロリダとテキサスをまたいだ川魚釣りの旅へ出掛けた。

夏休みのど真ん中というオンシーズンだったこともあり、航空券も高く、出発前から口座はスカスカ。オフシーズンまで待てばまだ良かったのだが、釣りたくなったのだから仕方がない。

釣り
石垣島ではいまだに捕獲例がわずかしか報告されていないアオスミヤキを釣った

 その結果、航空券以外の部分で節約を強いられた。石垣島では一泊1,500円の民宿に泊まったものの、埃で鼻水とくしゃみが止まらなくなり、結局レンタカーの中で夜を明かした。アメリカでは安いモーテルに泊まり、毎食サンドイッチを手作りして食べ続けた。

釣り
テキサスで釣り上げたアリゲーターガー
自分より大きな川魚というのはなかなか釣る機会もないので感激

 観光名所にも行かず、ご当地グルメもほとんど味わえない日々だったが、アオスミヤキやアリゲーターガーをはじめ、素敵な魚にたくさん出会えた。それが何よりである。

釣りにハマったからこそ、自分の世界が広がった

このように、あれもこれもと釣り歩いていると、とにかくお金を使うことになる。

狙いの獲物を見事に仕留めたからといって、誰かから賞品をもらえるわけでもない。大物を釣って写真をSNSに投稿したって、釣りオタクからしか「いいね!」はつかない。

強いて言うならば、魚肉が手に入ることはある。しかし、大抵の場合は超割高になる。マグロにせよアジにせよ、絶対にスーパーで買った方がコストパフォーマンスは良い。

つまり、どれだけ珍しい魚を釣っても、剥製でも作らない限りは、形として手元に残るものはほぼない。けれど得るものはある。それこそプライスレスなものがたくさん。

釣り
友達と一緒なら、自分で釣れなくても楽しいものだ

まず何と言っても、かけがえのない友人ができたこと。しかも全国のあちこちに、あるいは海外にも。

釣り場で出会って意気投合したり、ネットや雑誌に投稿した記事を見て連絡をくれたり。あるいは、そうして知り合った友人からさらに輪が広がったり……。

同好の士だから深い付き合いになるし、遠方同士でも「ご当地の魚を釣りに行く」という建前でお互いが住む街へ会いに行くこともたまにある。中には、一緒に仕事をする仲になった人たちも少なくない。振り返ってみると、魚だけでなく人も釣れるというのも、この趣味の魅力かもしれない。

また、思い出もたくさんできる。大物! 初めての魚! というメモリアルフィッシュについては言うまでもないが、獲物にたどり着くまでの道中で体験したアレコレも、思い返すと大切な記憶である。特に地方や海外への遠征は旅行の側面もあるため、行動を共にした友人と酒を飲む際にはそのときの話や写真がいい肴(つまみ)になる。

釣り
友人たちとアメリカでキャンプをしながら釣り回った思い出は、数年たった今でも酒の席で毎度話題に上がる

 あの時、川で食った弁当マズかったよなぁー! とか、ド田舎で車がパンクしちゃってえらい目にあった! とか。そんなしょうもない出来事でさえ、釣りが絡むと一生ものの思い出になるのだ。もちろん、ブラジルの川で大物たちにコテンパンにされた日のことも例外ではない。

釣り
海外一人旅中にレンタカーが故障して飛行機に乗り遅れたりしたのも……時間がたてばいい思い出に変わるんだよなぁ……

 それから、魚について話したり書いたりする機会にも恵まれた。これは少し特殊かもしれないが、僕はライターとして釣った魚とそれにまつわる話を各所に寄稿しているため、記事を読んだ自治体やイベント運営の方から「釣りや魚をテーマに講演やトークイベントをしてほしい」と依頼を受けることがある。

初めて話をもらった際は「プロの釣り人でもないのに講演だなんてとんでもない! 無理!」という感じだったが、いざ登壇してみると、意外と話せるものだったりする。むしろ、話したい内容が多過ぎて毎回時間が足りない。

ただ、魚好きが高じて始めた釣りという趣味。驚いたことに、これがいつのまにか、僕に講演会をさせてくれるほどの大層な体験をもたらしてくれていたらしい。……まあ、話す内容は「深海魚を食べたらお尻から油が漏れてきてヤバかったよ」とか「デンキウナギに感電したら超痛かったよ」とか、そんなバカなものばかりなのだが。

釣り
たくさん食べるとお尻から油が漏れてくる恐怖の深海魚、バラムツ。危ないので真似しないように

 ひょんなことから釣りを始めた僕だが、良くも悪くもプライスレスな体験を重ねていくうちに、抜け出さないほど深くハマってしまった。

別に海外まで行く必要は全くない。近所の池や漁港でも、釣り竿を伸ばしてみればきっと何かしらの思い出ができるはず。……たとえ、何も釣れなかったとしても。だから魚や自然、旅行やアウトドアに少しでも興味のある人には、ぜひこの趣味をすすめたい。

まずは、僕が最初に手にしたような簡単な釣り竿から始めてもいい。そこから釣りの楽しさにハマっていくはずだ。ただ、時間とお金はいくらあっても足りなくなるので、ハマり過ぎには注意されたし!

平坂寛

「五感を通じて生物を知る」をモットーに各地で珍生物を捕獲しているライター。生物の面白さを人々に伝え、深く学ぶきっかけとなる文章を書くことを目指す。主な著作に『外来魚のレシピ〜捕って、さばいて、食ってみた〜』『深海魚のレシピ〜釣って、拾って、食ってみた〜』(ともに地人書館) 『喰ったらヤバいいきもの』(主婦と生活社)
http://hiroshi-hirasaka.com/

編集:はてな編集部

年会費永年無料!!
ポイントがざくざく貯まる!

新規入会&利用でポイントもらえる >

楽天カードに申し込む

この記事をシェアする!

あなたにおすすめの記事